桜と狐

 小汚い狐が一匹。ふらふらと散歩をしていたら満開の桜を見つけました。
 根元から木を見上げて、あの桜の花の中で昼寝をしたら気持ちいいだろうなぁと思いました。
 狐はまず、距離をとってから飛び上がろうとしました。しかし、桜の木は大きく、一番低い枝まで届かず、狐は地面に落ちてしまいました。
 次に辺りを見回し、隣にある別の木に登ってみました。一番太く、桜の木に向かって伸びた枝を恐る恐る渡っていきます。枝が軋むところまで進んだら、勢いを付けて桜の木に向かって飛びかかりました。もうちょっとで桜の太い枝に届く と言うところで狐の前脚は空を切り、どしーんと、頭から地面に落ちてしまいました。
 眩む頭を押さえながら、狐はよたよたと木の根元までもどってきます。
 仕方がない。狐はよじ登って行く事にしました。右足を木の幹にかけた時、動きを止めました。そしてそっと、幹から足を降ろしてじっと自分の手を見つめる。黄金色の毛と肉球。そして白く鋭い爪。自分の自慢の武器。
 
 狐はもう一度桜の木を見上げる。太陽の光ぽかぽか、花はさらさら、空はきらきら。白い花は風に吹かれて優しく、柔らかく揺れている。狐はぷいとそっぽを向いて言いました。
 「ふん、こんな桜。風に吹かれて倒れてしまえばいいんだ」
 狐は興味無さげに、そこから走り去りました。そしてもう二度と、狐はその桜の木に近づかなかったのです。