「久しぶりに海に行きたいな」
 だが、誰も答えない。それもそのはずだ。今、自分の部屋には私一人しかいないのだから。
 なんの気の迷いか、私がまだ大学生なんかやっていた頃。不真面目だった私はほとんど講義に出ず、毎日のように自転車を一時間以上走らせて、近くの海へ行っていた。
 午前中に到着して近くの薄汚い、家族でやってるようなコンビニでパンを買い、朝食兼昼食として胃につめこむ。
 海についたら、何をするでもなくただぶらぶらとしたり、堤防に腰かけてサーファー達を眺めたり、灯台に登ったりしていた。雲行きが怪しくなったり、飽きたりしたら錆だらけの自動販売機で、賞味期限の怪しいジュースを飲んで帰る。そんな事をしていた。
 部屋に戻ったら隣の住人が子供を殴る音と、びーびー泣き喚く声。夜になれば上の住人が「助けてー、人殺しー!」って叫んだ後、ギシギシアンアン。
 見るアニメもなかったし、テレビも2時くらいに終わっていた福島。ロクでもない日々だったけど、それなりに楽しかった日々でもある。
 あの頃の経験が今に生かされているかどうかは怪しいところだ。ただ一つ言える事がある。それは、あの頃の自分はとても怪しい人物だったに違いない……という事だ。
 今もたまに公園とかでぼーっと子供達を眺めたりしている。そのうち通報されるんじゃないかとヒヤヒヤしながらも、楽しい日々を送っている。