童話『奇跡の起きた日』

まんが日本昔話風に読んでいただきたい。
 
 昔々あるところに、性別不明の不眠蝙蝠という者がおったそうな。そいつはレンタルビデオショップでアルバイトをしながら、小説を書いておったそうじゃ。
 そいつが後生大事に使っておったピンク色の小さい棒があったんじゃ。それはフラッシュメモリという、データの持ち運びが簡単にできる、偉く便利なものじゃったそうな。
 しかし、あるときから急に128のフラッシュメモリを見なくなってしもうた。
「この間バイトの時、帰り際に『これを忘れたら大問題だ』って思って引っこ抜いて帰った記憶はあるから、バイト先に置き忘れたって事は無いんじゃが・・・・・・どうしたんじゃろぅのぉ」
 
 多少の不安はあったものの、そのまま何事も無く不眠蝙蝠は過ごしておった。けど、事件は偉い天気のいい日に起きたんじゃ。
「今日は偉い天気がいいなぁ。そうだ、洗濯でもすれば、一瞬で乾いてしまうはずじゃ」
 不眠蝙蝠は溜まった洗濯物を洗濯機に詰め込むと、水を入れてスイッチを入れた。ゴウンゴウンと心地よい音を鳴らしながら、洗濯機は動き出す。
 すると、どうした事だろう。突然洗濯機がカラカラカラ、カラカラカラと、心地よい音をたてるではないか。
「おうおう、どうした事じゃろう。小石でも、入っておったのかな」
 洗濯機を止めて中を弄る不眠蝙蝠。指先にこつんと触れた何かがあったので、ソレをつかんで一気に引き抜いたんじゃ。
「洗濯物の邪魔をする小石め。どぶ川に投げ入れてくれるわ!」
 しかし、ふと手の中のもを見ると、それはピンク色にきらりと光っておった。
「な、なんじゃ? この見覚えのある形は。ま、まさか……」
 なんという事じゃろうか! 不眠蝙蝠は大事な大事なフラッシュメモリを洗濯機で洗濯してしまったのじゃ。
「おおぉ……わしは、わしは何て事をしてしまったんじゃろう!! 128のフラッシュメモリよ、わしを許しておくれ」
 おいおいと不眠蝙蝠は嘆き悲しみました。もはや使えるはずの無いフラッシュメモリ。じゃが、今まで大事にしてきたものを、どうしてほいほいとゴミ箱へ捨てることができるじゃろうか。不眠蝙蝠はフラッシュメモリを布でふき取り、乾かして大事にしまっておったそうじゃ。
「ごめんのぉフラッシュメモリ。お前には結局、完成原稿を食べさせてやる事ができんでのぉ。そうじゃ、もう一度パソコンに刺さってみたいじゃろ」
 パソコンのUSBコネクトにフラッシュメモリを差し込んだその時じゃった。どうした事じゃろう、パソコンが突然フラッシュメモリを認識したのじゃ。
「これはどうした事じゃろう。いったい何が起きたんじゃ」
 ドライバーは削除していなかった不眠蝙蝠は、ためしにフラッシュメモリにアクセスを試みたんじゃ。するとどうした事じゃろう。中身をそのままに、濡れた事なんてまるで嘘のように元気にピンピンしておるではないか。
「おお、フラッシュメモリよ! まだ生きておったか!! すまなかったな、わしが手荒な扱いをしたせいで……本当にすまなかった」
 不眠蝙蝠は涙を流しながら喜んだそうじゃ。それ以後、不眠蝙蝠はフラッシュメモリを更に後生大事に扱ったそうじゃ……。