天使は歌う

 歌い、奏でることが人間の至福だ。音は人間が得る事の出来る財宝の一つだ。だから、しゃべる事も聞く事も出来ない人には同情するし、哀れむし、もし仮に自分がそう言う立場になったら耐えられない。そう言う意味で、そういった障害を持つ人を私は尊敬する。
 目よりも耳を尊重する生き方をし始めたのはいつからだろう。目で見える光・景色・風を感じられなくなるのは当然辛いが、それでも歌と楽器があれば少しだけ耐えることは出来そうだ。
 私は今までロクなものを見てこなかった。代りに、耳から得られる物のそのほとんどが、軽やかな感じがしたからなのかもしれない。
 声の裏側に秘められた、人の下心を感じられない馬鹿だからなのかもしれない。ただ、私は声の裏側に秘められたその人の純粋な気持ち・思いを聞き取ることが出来る自分の能力をいとおしいものと思ってる。
 いつか、あらゆる至福の条件が整った天使の歌に出会えるかもしれない。その日を私は首を長くして待つのだ。
 そう、待つのだ。自分からは動かない。